大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所室蘭支部 昭和33年(わ)265号 判決

被告人 高木繁市

明三二・一一・二六生 農業

加藤正美

昭二・七・二生 日雇

主文

被告人加藤正美を懲役一年二月に

被告人高木繁市を懲役一年及び罰金三万円に

各処する。

被告人高木繁市が右罰金を完納することができないときは金三百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

事実

第一、被告人加藤正美は、昭和三三年二月一日頃より同月一〇日頃まで有珠郡大滝村字昭園、昭園国有保安林有珠経営区第三八林班ろ小班及びは小班において、室蘭営林署大滝担当区主任農林技官木立政栄管理の生立楢等約一四九本(石数約七二五石一斗価格約三二万一九二一円相当)を伐採して窃取し、

第二、被告人高木繁市は、盗伐木であることの情を知りながら同月初旬頃から同月二〇日頃までの間に有珠郡壮瞥村字幡渓四六番地自宅附近及び同字国鉄幡渓駅土場において、相被告人加藤から前記盗伐にかかる木材約五〇〇石位を貰い受けて収受し、

たものである。

証拠(略)

適用法令

被告人加藤正美 森林法第一九八条、刑事訴訟法第一八一条第一項但書

被告人高木繁市 森林法第二〇一条、第二一二条、刑法第一八条、刑事訴訟法第一八一条第一項但書

被告人らに対する公訴事実につき、当裁判所の認定した事実は前示のとおりである(判示第一の生立木の本数、石数、見積価額は、野帳の本数、石数、見積価額より第二回検証調書添付第二図中橙色線内の本数、石数及び見積価額を控除し、かつ、同調書中記載の樹種の変更による石数、見積価額の調整によつた)。被告人高木繁市に対する被告人加藤と共謀の上判示第一のとおりの盗伐を為したとの事実(主たる訴因)は、全証拠をもつてするも、これを認めることができない。

弁護人は、被告人加藤正美は被告人高木繁市の娘婿であるから、刑法第二五七条により刑を免除せらるべきものと主張するのでその当否につき判断を加える。

被告人加藤が、法律上でも被告人高木の二女の夫であることは被告人らの当公廷におけるその旨の供述その他によりこれを認めることができる。しかし、賍物犯人が刑法第二五七条により刑を免除されるのは、第一に、賍物犯人と本犯との間に直系血族又は配偶者なる親族関係の存する場合であつて、これらの場合は、同居の事実を必要としない直系血族は、親等の如何を問わないが、傍系血族は、第二に記載のとおり本犯と同居の事実がないかぎり仮令二親等(兄弟)の場合でも本条の適用を受けない。第二に、賍物犯人と本犯との間に(イ)親族関係(六親等内の血族及び三親等内の姻族)が存しかつ(ロ)同居の事実が存する場合であつて、そのいずれかの要件を欠けば、やはり本条の適用を受けない。第三に、賍物犯人と本犯との間に右の如き親族関係ある者の配偶者(非親族)であつて、かつ同居せるものである。この場合の親族は賍物犯人と同居するを要しないが、刑を免除さるべき配偶者は同居するを要する。従つて刑法第二五七条の「同居」なる文字は、親族と配偶者の双方にかかり、「此等ノ者」自身は、必ずしも、同居するを要しないが、刑を免除せらるべき親族又は配偶者は、本犯との間に同居の事実あるを要するものと解するを、相当とする。同居の親族又は配偶者をこのように解しないと、本犯が兄弟その他の近親血族であつても賍物犯人と同居しないかぎり刑を免除されないのに、本犯が親族でなくても(配偶者)賍物犯人と同居する場合は刑を免除されるという不権衡を生ずるからである。

被告人高木と相被告人加藤とは、その居を異にし、それぞれ独立の生活を営んで居ることは、被告人らの当公廷におけるその旨の供述等によりこれを認めることができる。従つて両者の間に前記の如き姻族関係があるとしても刑法第二五七条列記の者に該当しないのであるから、被告人高木は、同条によつて刑を免除されるものではない。

従つて弁護人の前記主張は、採用しない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 畔柳桑太郎)

理由

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例